自家歯牙移植術について その3
前回からの続き
前回お伝えした自家歯牙移植術( 歯の移植 )の予後が悪くなる原因の1つめ
『移植術を行う術者の技術上の問題』につづき
私が考える、自家歯牙移植術の予後が悪くなる原因のもう1つは、『適応条件の誤り』、簡単にいえば『できもしない条件下で施術してしまうこと』です。
自家歯牙移植術が行えるためには
- ・移植歯(ドナー)が存在すること。
- ・移植歯の歯根の形態がなるべく単純であること。
- ・移植歯を含めた口腔内全ての歯が歯周病に罹患していない、または軽度であること。
- ・移植歯の歯根管内の感染が無い、または軽度であること。
- ・移植受容側(レシピエント)の歯槽骨が、移植歯根の太さ、長さを受け入れるのに、十分な幅、高さを有すること。
- ・患者さん自身が協力的であること。
- ・患者さんが比較的若い方(40歳くらいまで)であること。
以上のような条件が、すべてそろうことが必要になります。
『私にかかれば、どんな厳しい条件下でも移植できる』なんてことは全くなく、単に症例を十分吟味して施術しているに過ぎません。
ムリはしない。
自家歯牙移植術ができないのであれば、インプラント治療など、他の治療法を選択すればいいのです。
HPでの症例を、再度提示します。
ここは、左下の奥歯です。
左下の前から7番目の奥歯の欠損に、右上の親知らずを移植しました。
通常は、欠損部直近の親知らずを抜歯して移植するのが基本原則です。
しかし、レントゲン写真右端に写っているように、今回は左下の親知らずを使いませんでした。
左下の親知らずは歯根の形が複雑で太いため、この欠損部には入りません。
しかも抜歯しようとすれば、抜去した歯根はかなりの損傷を受けてしまうので、ドナー歯として使い物にならなくなってしまいます。
そのため、歯根の形が単純な右上の親知らずを選択しました。
これをムリして左下の親知らずをドナー歯にしてしまったりすると、『できもしない条件下で施術してしまうこと』になってしまうのです。
『適応条件を厳守すること』は、自家歯牙移植術を成功させるための大きな要件です。